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 株式会社トミーウォーカーが運営するネットゲーム「SilverRain」のPC雪白ハクヤの日記帳。
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 【14】緋色ノ月


月をあげると言われたら。

欲しいのは夜空に浮かぶ月ではなくて―――、














今、何時だろう。
携帯も何も持たずに飛び出してきたハクヤは、時間の感覚も曖昧で。
いい加減帰らなければ、これ以上迷惑を、心配をかけてどうするのかと頭では分かっ
ているつもりだが、気持ちが追いつかない。
より深く顔を膝に埋めて、じっといまだ勢いを失わない雨に打たれて動くことが出来ない。
想いを伝えようとようやく決めたはずだったのに、ハクヤの心はまだ二の足を踏んでいる。
どうしても伝えた後の反応が怖い。
本当に臆病でどうしようもないと、溜息を吐きながら、ぶるりと冷えた身体を震わせた。

そう蹲って視界を塞いでいたハクヤの耳に、突如間近で水たまりを蹴る音が響く。


「―――っ、は、やっと、みつけた・・・っ」

思考の片隅で待ちわびていた声に、顔を膝に埋めていたハクヤは瞳を見開いた。
一瞬幻聴ではないかと思い、やがて確かめるようにゆるゆると頭を起こせば、ずっと想っていた人物が目の前に。


「・・・、しの、ぶ」


見上げた幼なじみは何処もかしかもびしょびしょに濡れていて、慌てて結んで来たのか、緩くゴムで止められただけの夜色の髪はところどころ解れている。
ぽたぽたと滴る水が、どれだけ自分を探してくれていたのか如実に現していた。
それを見たハクヤは嬉しくそして申し訳なく思い、覇気のない震えた声を、薄く開いた口から零す。


「・・・ずぶ濡れ、じゃん」

「・・・途中で雨が降って来ちゃったから。ハクヤだってびしょびしょだと思う」


忍は困ったように笑うと、座り込むハクヤの前に目線を併せるようしゃがみ込んだ。
穏やかな緋色の瞳は何処までも真っ直ぐで、後ろめたい気持ちがあるハクヤは落ち着かない。
思わず反射的に目を逸らしてしまい、同時に寂しそうに緋色の瞳が細くなるのが視界の端に映って罪悪感が胸内で渦巻いた。
自分がどんな感情を抱いているのか忍は知らないから。
もし、今伝えたら、どんな顔をするのか。もしも、困らせてしまったらと、ぐるぐると悩み二の句が継げない。

そんなハクヤの口から出た言葉は、あまりにも理不尽な一言だった。


「・・・何で、追いかけてくんの、」

「・・・ハクヤ?」

「勝手に、飛び出したんだからほっとけばいいだろ。・・・忍まで、濡れる必要ねーじゃん」


何で、どうして探しに来てくれたんだと。消え入る声で何度も零す。
まるでごねる子供のようだ。
再び顔を膝に埋めたハクヤの声は全く抑揚なく、普段よりトーンが落ちているせいで冷たい印象を忍に与える。


「・・・、どうして、そんなこと、言うんだ?」


ぽつりと届いた忍の声が、ハクヤの胸に突き刺さった。
見なくても分かる。傷つけた。この声は傷ついた声だ。
違う。違う違う。ああ、また、悲しませている。
上手く言葉が紡げない自分自身にハクヤは苛立ちを募らせた。
だから、追いかけてこなければよかったのに。違う。何だ。何て言えば。
自己嫌悪は何処までも限りなく。

そして、それは酷く情けない形で表に現れた。


「・・・なんで、こんな雨の中、俺は、忍に、迷惑かけたくねーのに、かけてばっかで・・・」


目線をそのまま地面に落として、弱々しい言葉を漏らした。
こんなに。こんなに大事なのに。
伝えようとしていた想いも、飲み込まれるように意識の底に沈んでいきそうだ。


「こんな面倒くせー、こと、してんのに」


何も言わなくなってしまった忍に、罪悪感と焦燥感に染まっているハクヤは止まらない。
泣き言に近い弱音をボソボソ呟いて、吐いた弱音は雨の音に溶けていく。


「勝手に飛び出した奴なんて探すなよ」
「迷惑かけてばっかで、」
「傷つけてばっかりで、」
「俺は、」
「俺、は忍に、」


言葉が途中で途切れる。


重荷だと思われたくなくて。
嫌われたくなくて。



そう、口に出してしまうのが怖かった。
頭の中で思うだけより、音として外に出してしまう方がより現実味を帯びて自分に返ってくるのだから。


「忍、に、」

「・・・ない」


途中で途切れ、再び繰り返そうとしたハクヤの弱音は、忍の静かな声に遮られる。
降り注ぐ雨の音でなんと言ったのかまでは聞きとることができず顔を上げたその時―――、しゃがんでいた忍が勢いよく立ち上がった。
虚をつかれて見上げるハクヤに、忍は、もう一度、口を開いた。



「迷惑だと思った事なんてない・・・っ!!!!!!」



降り注いだ言葉は想像できなかったほどに強く。
忍が叫んだ事実を、ハクヤは理解するのに数秒を要した。
自らの身体に蓄積された疲労も忘れ、呆然と眼前に立った忍を見る。


「我慢が悪い事なんて言わない。けど、限界は誰にでもあるんだぞ? 現に、今、どうしようもなくなってるじゃないか・・・っ!!」

「そ、れは・・・、」


忍は細い整った眉をつり上げて、怒りと悲しみが混ざり合った表情を浮かべて。
ハクヤを何処までも真っ直ぐに見据え、緋色の瞳を悲しげに細め、ぽろぽろと雨とは違う暖かな水をその緋色の瞳から止めどなく零して。

初めて見た。こんな風に感情を剥き出しにする姿を。
胸が締め付けられた。緋色の瞳が濡れて揺れる姿に。
こんな泣き方もするのか、させてしまったのかと。


「俺が、いつ、負担になるなんていったんだ!? 俺は一度も負担に感じた事なんてない!!!
 ・・・何か、何か、俺、ハクヤを傷つけるようなこと言った・・・っ?」


あんなにずっと一緒にいたのに初めて見た幼なじみの姿に、ハクヤは狼狽し、全く予想していなかった事態にただ狼狽えるしかない。
二の句が継げないハクヤを畳み掛けるように、忍は言葉を紡ぎ続ける。
困ったことに矢継ぎ早に紡がれる言葉は、すべて的を射ていて反論の余地がなかった。


「い、いってない、いってねーけど・・・っ」

「これ、じゃ・・・、」

「!」


両手で顔を覆って俯いた忍に、ハクヤは反射的に身体を竦ませた。
こんなに、怒らせて、次に自分に向けられる言葉が好意的なものだとは思えなかったのだ。
煮え切らない自分を見限ってしまったのじゃないかと怯え、何も出来ないまま次の言葉が出てくるのを待つしかなく。


けれど―――、








「これじゃ、これじゃ・・・っ、俺が傍にいる意味ないじゃないか・・・・・・・っ」








「しの、ぶ・・・」


怒っているわけではなかった。
そうじゃなかった。そうではなくて、忍は。


「俺はハクヤが必要としてくれて本当に嬉しかったのに、」
「嫌じゃないなら話して、俺はハクヤの話をちゃんと聞くから、」
「今までだって辛いときも一緒、楽しいことも一緒、だったじゃないか・・・っ」


だって、降り注ぐ言葉はどれも暖かくて、自分のことを思って紡いでくれているのが、鈍って凍り付いた思考でもはっきりと分かる。


「重たいものは半分ずつ持てばいいと思う。今までだってそうしてきたと俺は思ってる。でも、それとも・・・、」




―――それとも、もう、俺は必要じゃない・・・?




「・・・っ!!!?」


忍の悲痛な叫びを為す術もなく聞いていたハクヤは、その言葉にひゅっと息を呑み背筋を凍らせた。

そんな、そんなわけがない。
反射的に自らも立ち上がって、両手を勢いよく広げ叫んだ。


「―――ち、ちがう!!違う、そうじゃない、そうじゃねーよ・・・!! 俺は、俺は・・・!!!」


脳裏が真っ白になり、狼狽えて動揺したハクヤは上手く言葉が出てこない。
違う違うと頭を左右に激しく振り、癇癪を起こした子供のように頭を両手で押さえ、同じ言葉を繰り返す。

―――そのとき、


「・・・!?」


ふわりと。
透き通るような白い両手がハクヤの頬に触れた。

びくりと身体を硬直させたハクヤの耳の下を、するりと忍の細い指がすり抜け、濡れた白い髪を優しくかき分け包みこむ。
ほとんど身長差がない2人は、見下ろす必要も見上げる必要もなく、自然と見つめ合う形になった。
忍の色鮮やかな緋色の瞳に、怯えた表情を浮かべた光のない瞳を見開くハクヤの姿が映っている。
無理に固定されているわけでもないのに、添えられた程度の力加減なのに、ハクヤは顔を動かせない。
ただ、じっと雨に濡れた忍の姿を見つめ返すことしかできなかった。
忍の瞳は今だ濡れたままだったけれど、宿る光は何処までも強く、放たれた言葉は真っ直ぐで。


「だったら、こっちを見て。ちゃんと目を見て話して。俺に、」








―――俺に、怯えないで。







「・・・・・・っ・・・、」



ガツンッと頭を殴られたような衝撃がハクヤの身体を電流のように駆けめぐる。

思い知った。
あんなにも欲しがった好意に怯えていた自分は、いつも傍にいてくれた暖かくて大切な幼なじみにすら怯えていたのだと。
今、今、思い知った。

呆然としているハクヤをどう思ったのか、忍はただ柔らかく微笑んで、そのままこつんとハクヤの額に自らの額を当てる。
先日も同じ事をされたなとハクヤはぼんやりと思い出した。
違うのは2人ともびしょ濡れだと言うこと。忍の髪が解れていること。自分の視界が雨で滲んでいること。

―――それから、あのときは向き合えていなかった感情を今は自覚してしまっていること。

ハクヤは普段鬱陶しいほどに自ら忍に触れようとするのに、いざとなると手を伸ばすことにも伸ばされることにも怯える。
そうなってしまったハクヤに手を伸ばして、触れて、包み込んでくれるのはいつも忍の方からだ。

自分は傷つけてばかりだというのに、忍はそれでもこちらに手を伸ばしてくれる。

濡れた睫を瞬かせた忍の瞳から、また暖かな雫がゆっくりと落ちていくが見えた。
忍の流す涙は、優しくてそして痛々しい。
幼少の頃愛情を全く与えてもらえなかったハクヤは、この涙を何と例えて良いのか分からなかったけれど、何処かが痛んで、何処かが暖かく溶けていくのだけは分かった。


「俺は大丈夫、だから。いきなり大きな声だして、ごめんな・・・?」


震えた声で囁く忍に、ハクヤは眉を寄せて、瞳を伏せて、頬を包まれたままゆるゆると小さく首を振った。
忍は何も悪くない。
自己嫌悪にうんざりして、脈絡のない弱音をぶつけて、八つ当たりを起こしたのは自分の方だ。


「ハクヤ、何かあった・・・?」


そう問いかける忍に、瞳を伏せたまま、ハクヤは押し黙る。
今も昔も変わらない、あの男との確執が、今回はいつもより度を超していただけ。
自分の容姿が気になり、まだ独りだった時の重い記憶に、感情が黒く塗り潰された。
濁って淀んだ感情を何とか昇華しようと蓋をして、けれどできなくて。
つい先日大事だと胸中で思っている友人にまで、吐露すべきでなかったのに吐き出してしまって。

虚勢を張っては自己嫌悪に陥り、それをまた無理に誤魔化そうと頬を引きつらせて笑い、それもできなくなって、感情そのものに蓋をする。
果てのない悪循環だった。

正直、此処まで落ち込むとは思っていなかったのに。


「あいつ、に会った」


何処まで言えばいいだろうと戸惑いながらも、ぽつりと断片的に答える。

自分の実父に当たる存在を、ハクヤは決して名で呼ばない。
同じように、あの男もハクヤの名を極力口にしない。
呼ぶ方も呼ばれる方も、互いが肉親であることを拒絶し、受け入れていないのかもしれない。


「・・・おじさん?」


それでも、忍は誰のことを指しているのかすぐに分かってくれた。


「・・・ん」

「何か、言われた?」


気遣うように、忍がそっと問いかける。


「・・・、」


躊躇うように、ハクヤは再び黙り込んでしまう。
いつもと同じだ。
悪意と嫌悪と、失望のぶつけ合い。痛くて苦しいやりとりの繰り返し。
別段もう、あの男に情など求めていない。
けれど、飼い殺しに近いこの状況を受け入れることはしたくない。
言えば自分とあの男の間に挟まれている忍を苦しめるのではないかと思う。
それが嫌だから何とかしようとしたのに、と戸惑いを浮かべるハクヤに、そっと忍は先を促した。


「言って? 確かに俺はおじさんに引き取って貰ったけど、おじさんの考えに同意してるワケじゃない。俺は、」


―――ハクヤの方が大事だもの。


はっきりとそう口にした忍に、ハクヤは瞳を瞬かせた。
率直な言葉はハクヤの背中を押すには十分すぎるほどだ。


「・・・しの、ぶ」

「だから・・・、ちゃんと言って?」






・・・本当に、どうして、こんなに優しくて暖かいのだろう。

視界が滲んで声が震える。
言葉が上手く紡げない。
堪えていた物が全て、溢れてくるのがわかった。

ハクヤは自分の顔がみるみるうちに歪んで行くのに気づいた。
でもこれは、ここ数日浮かべていた無力な自分に対する嘲りでも、諦観でもなく、
―――安堵だ。

ぐずぐずと鼻がうるさく鳴り、視界がさらに滲んで忍の姿がぼやける。
けれど、頬に添えられた手は、触れあった額の感触は確かな物で。
互いに身体は冷え切っているはずなのに、その場所だけは暖かくて、熱くて。


「・・・・・・学園に来る前、条件出されて。そんで、学園の現状とか、依頼の内容とかをあいつにいわねーといけなくて。この前行った依頼の後、鎌倉に来るから報告しに来いって言われて。そんで、途中まではいつもと変わんねー・・・、よ。やれ、家に泥を塗る真似だけはするなとか、そんな」


吹き飛ばされた感触。
壁に叩きつけられる感覚。
振りかぶり何度も振り下ろされた足。
生々しい記憶に、無意識に瞳を眇める。


「ただ、あいつ今回虫の居所が悪かったっつーか、俺が余計なこといっちまったっつーか、それで、いつにも増してあれこれ言われた。・・・けど、忍を引き取ったのはアイツだし、下手なこと言って忍と引き離されたくなかったし、」


いつもどうでもいいことは五月蠅いぐらいに口にしては騒ぐのに、ずっと思っていたことをこうやって吐き出すのに随分と時間がかかった。


「なんとか、流しちまいたかったんだけど、そんで、GTとかいって、発散しようと思って、けど、逆に、よけい、ぐちゃぐちゃ、になっちまって・・・、」
「そのこと、で、・・・忍に、言いてぇことが出来て」

「うん」

「けど、困らせるかもしんねーし、どういう反応帰ってくるかわかんなくて、情けねーけど、それが、怖くて仕方ねーっつーか・・・っ・・・」

「うん」

「ちっちぇーとき、は、ほんと、兄弟・・・っつーか、なんつーか、そんな感じ、で、忍が特別で・・・」
「だか、ら、忍が俺をわすれちまったのは正直ショック、で」

「・・・うん」

「でも、一緒に暮らせるようになったのは、マジ、嬉しくて」

「・・・うん、そういえば、ハクヤひよこみたいだった」


ずっと静かに聞いていた忍が、ふと思い出したようにくすりと笑う。


「・・・んだよそれ」

「俺の服の裾握って、ちょこちょこ後付いてきて」


・・・今思い起こせば確かにそうだった気がする。
ただ純粋に忍と暮らせるのが嬉しくて、離れるのが嫌で、ずっと忍の後をついて回っていた。
実際、面と向かって言われると気恥ずかしい物があるが。


「・・・と、ともかく忍がいたから、あんな嫌いな家でもなんとかなってたんだよ」

「・・・うん」


驚いた。忍には素直に何でも言ってきたつもりだったのに。
こんなにもまだ伝えていない伝えたかったことがあったのか。

先走る感情のまま吐露していく言葉は、纏まりが無く支離滅裂だ。
それでも忍は先を急かさず、根気強く聞いてくれている。



―――もう、このタイミングを逃したら、一生言えないかもしれない。



今だハクヤの胸中は迷いと逡巡の繰り返しだったが、今日向き合った想いを忍に伝えるために恐る恐る口火を切った。



「・・・俺、さ」

















































「忍のこと、好き、なんだけど」
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2008⁄04⁄19 00:10 カテゴリー:SS
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プロフィール

雪白ハクヤ

Author:雪白ハクヤ
性別:男
職業:クルースニク×魔剣士
誕生日:11月8日


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