株式会社トミーウォーカーが運営するネットゲーム「SilverRain」のPC雪白ハクヤの日記帳。
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 【11】Twilight(後編)


二度、三度、宥めるような言葉を投げ掛けられ、髪をぐしゃぐしゃにされ。


いつもなら子供扱いするなと噛みついたり、くすぐったいからやめろと暴れるか逃げ出すかするのだが。
酷く臆病になっているハクヤは鈍い反応しか返せず、どういう顔をしたらいいか分からず。
ふいっと視線を逸らし、どう返答しようかとまとまらない思考の中で足掻いていた。
強く拒絶して不快感を与えてはと躊躇い、かといってついていった後何かをきっかけに癇癪を起こして八つ当たりしてはそれこそ意味がないと逡巡し。


―――大した口実も思いつかず、申し出を断る事もできず、結局好意に甘える形になった。


肩かそうか、歩けるからいらねぇなどの押し問答をしばらく続けていたが、先ほどから右足に力が入らずどうしようもなくなっていて。
促されて腕を取られて、ようやく良将の肩に手をかける。
今更だと分かっていても、此処まで弱っている状態を見せるのは罰が悪い。
迷惑をかけている、呆れられているかもしれない、思い浮かべれば不安な要素がいくらでもでてくるからだ。
ゆっくりと重い足取りで良将が住んでいるアパートまで向かった。












玄関からあがってそのまま棚の近くに座らせられたハクヤは、テレビの横まで移動し壁にもたれる。
左膝を立てて顔を埋め、右足を投げ出して所在なさそうに視線を巡らせた。
何度か訪れたことのある部屋は段ボールが数個隅に置かれている以外は特に変わりない。
だが、それらが引っ越しの準備だと気がついて眉を寄せた。
やっぱり忙しかったんじゃん、と物言いたげに良将の顔を見れば、


「もうほとんど終わってるから良いの!」

「・・・まだ何も言ってねーよ」

「顔に書いてあったんだぜ!」

「・・・」


口を開く前に言葉を返され、面白くなさそうな顔で良将に抗議をしたハクヤだったが、図星をつかれてしまっては何も言えず、むすっとした表情を浮かべて再び視線をずらす。


「まずは足だよねェ。ほら雪白足出す!」

「・・・見た目ほど酷くねーし」

「出す」

「・・・」


有無を言わさない口調に気圧されて、のそのそとズボンの裾を上げれば腫れ上がった患部が視界に入る。
翳した褐色の手から、淡い光を纏った白燐蟲が現れ、赤黒く腫れ上がったそこに集まり這うのを他人事のようにみていたが、じんわりと、先ほど感じていた熱とは違う柔らかな感覚を認め、ようやく強張っていた身体の力を抜いた。
顔を背けたまま視線だけを向けて、良将の表情を伺う。
ハクヤの右足首に白燐蟲を宿している良将を横目で見ながら、無意識に息をつきまた視線を逸らした。
それに気づいているのかいないのか分からないが、良将は蟲を暫く這わせた後、軽くハクヤの足首に触れて怪我の具合を確かめる。


「折れてねェよな? …大分マシだろ、あとは湿布かなー…」

「・・・靴は」

「履いたらダメに決まってンでしょ」

「・・・帰りどうすんだよ」

「送ってったげるよ」

「・・・、忍に」


一瞬口ごもって、あんま心配かけたくねぇんだけど、と、消え入りそうな声で呟く。


「バーカ。変に気ィまわした方が余計心配するよ、神風は!」

「・・・」


即答されて押し黙った。
―――分かっている。分かっているから困るのだ。
今回は、今回だけでも、どうにか整理を付けようと足掻いて、結局どっちつかずになって、糸がこんがらがってしまって、もどかしく忌まわしい。
迷惑をかけたくない相手に迷惑をかけて、これからまた、一番心配させたくない相手に心配させてしまうかと思うと、今更ながら自分を呪いたくなった。
元々気怠げだった瞳をさらに伏せて、わかった、とだけ答えた。


「そういえばちゃんと飯くってんの?今から何か作ってあげよっか」

「・・・いらね」

「・・・ちゃんと食ってた?」


まともな食事は取っていなかったが、正直何も食べる気がしなかった。
普段は好物や美味しそうな食事を出されればすぐに手を出すのだが、昔から酷く不安定になるとほとんど食欲がわかなくなる。
今更気にもしないけれど。


「・・・食ってた」


憮然とした面持ちで視線を逸らしながら答えると、良将は溜息をつきハクヤの髪をくしゃりと掻き交ぜてから台所へ立った。
食ってたっつったのに、と思いながらも大人しく後ろ姿をじっと見送る。


「なーんか食いやすいもんがいいかなー、スープとかどーよ?」

「・・・別に何でも」

「んじゃあるもんで適当に作りますかー」

「・・・っつーかいらねーって」

「駄ァ目。燃やすもんがねェと体冷えるんだぜー?」


宥めるように諭すように言われ、断るのを諦めた。
横目でお湯を沸かし始めた良将を見る。



―――黒髪。昔は酷く憧れた。



未練がましい考えに辟易して、窓の方へ視線を逃がした。
今度は自分の手でぐしゃりと髪を触りそのままするりと項を撫でる。
窓に映った、指の間をすり抜けていく髪はどうやっても白いまま。
表情が抜け落ちた顔のまま、当たり前だと心の中で嗤う。

そこで、ふと、良将と山の麓で交わした会話を思い出した。





―――髪の色薄い緑目ってあっちじゃレア度高いんだぜ、知ってた?





「・・・あっちって」


独り言に近い、声量で呟く。


「ン?」

「・・・あっちってお前の出身地のことかよ」

「・・・ああ!何の話かわかんなかったじゃん!」


スープのもとを入れたカップに沸かしたお湯を注ぎながら、江間は暫く首を傾げていたが、やがてハクヤが何を指して言っているのか理解すると、一言そーだよ、と答えた。
掘り下げて聞いたことはないが、良将が外国で育ったのは知っている。
聞いたのは自分だというのに、外国でも物珍しいのか、と、勝手に気分が重くなった。
珍しい、という言葉にもいろいろ取り方があるのに今は悪い方向にしか取れない。
窓の外を眺め、瞳を伏せ、そーかよ、と返しそれきり口を閉ざした。
良将がカップをスプーンで掻き交ぜる音がする。

窓ガラスにうっすらと自分の姿が映っていた。
良将の姿も映っているはずなのだが、何故か視界が酷く狭い。




―――真っ白な髪の。緑目の。物珍しい。異端の。奇異の。



何を見ても、何を聞いても嫌な方向にしか取れない今の状態すら嫌だった。
カップを目の前に差し出されてようやく良将が来ていたのに気づくほど、思考も反応も鈍くなっている。
暖かいスープの香りが鼻腔をくすぐった。
あまり空腹感はなかったが、緩慢な動作でそれを受け取る。


「熱いから気をつけてねェ。それとも冷ましたげよっか?」

「・・・いらねぇ」


窓の方を見ながら、憮然とした表情で答える。
良将もハクヤにカップを渡し終えるとそのまま傍に座った。
それでもハクヤは窓の方を頑なに見る。視線を合わせるのが、ただ怖い。


「珍しくても良い事なんてなんもねーよ」


ぽつり、と勝手に言葉が漏れた。
何が、とは問われなかった。


「そう?」

「・・・そう。気持ち悪ぃだけじゃん」

「そう?」

「・・・そうだって」


何故聞き返すのか分からず、疲れた声で答える。


「・・・どうしてそう思うのさ」







―――どうして?







窓ガラスに映ったハクヤの姿がぼやけていき、うっすらと痣だらけの真っ白な子供が窓に映る。
それは転がってうずくまって、ハクヤを見ていた。
顔だけは小綺麗なまま、首から下は内出血と打ち身で変色した痣で覆われ。
やがて、はっきりと窓ガラスに映り、何もかも諦めているかのような、それでいて貪欲に何かを欲しがっているような青緑の瞳がこちらを見て、手を、伸ばそうとそれは。





―――そんなの、そんなの当たり前だった。





「実家が」



子供の視線から逃げるように、伸ばしてきた手から逃れるように、「見る」ことをやめ、口火を切る。
誰かに喋っている自覚はそこになく、ただ、溜め込みきれなかった濁った物をはき出すように口を開いた。
吐き出さないと、爆発しそうで、それは避けなくては、とかろうじて踏みとどまった結果、聞き手にとっては反応に困るような馬鹿馬鹿しい内容を、ただ、吐露するためだけに。
―――なんて矛盾。


「実家、学園の水練忍者っぽいのが多いんだけど」

「俺は水、上手く扱えなくて、水中呼吸とかマジ無理で、池に放り込まれたときは死ぬかと思ったぐれぇーで」

「普通水練忍者だったら水ん中でも呼吸できるからそんな事ねーんだけど、俺は無理で、しかも見た目こんなだし」

「身内に白い髪も緑目もいないもんだから、髪の色は突然変異だとか、目の色が外人の血が混じってるんじゃないかとか」

「住んでたトコ、保守的っつーか、閉鎖的で、そういうの気味悪がるっつーか」

「親が結構金持ちで、偉そうな家に住んでて、家政婦?使用人?なんかそんなのがいっぱいいるんだけど、まぁ似たような反応しか返ってこねーんだよ。別にどうでも良かったけど」

「そりゃーもう、あいつが、ああ、男親が、何だっけ、世間的に見せたくなかったらしくて、俺を無かったことにしたかったらしいけど、無理で、とりあえずワケわかんなくなるまで殴るは蹴るは、手加減しねぇわ、誰も、誰も助けてくれねーし、痛ぇし」

「あーでも顔は殴られた事ねーけど。母親、が」




―――お前さえ産まなければ・・・!!




ホテルで言われた男の言葉が、再び突き刺さって、一瞬だけ止まる。
だが、それもハクヤの吐露に拍車をかけるだけだった。


「母親、の顔覚えてねーけど、似てるらしいぜ。髪の色とか目の色は違ったみてぇだけど。まぁ、いてもいなくてもあんまかわんなかったんじゃね?」

「そんなにうざいなら無視すりゃいいのに、わざわざ呼び出すんだぜ。わけわかんねー」



何処も見ず、焦点を合わせず。
壊れたテープのようにつらつらと言葉を紡ぐ。
纏まってすらいないそれは耳障りにすら聞こえたが止まらなかった。
何か答えが欲しいわけでもない。良将に話しているという自覚もない。
窓の向こうにいるあの子供が早く消えてしまえばいいとそれだけを思って――――――、それが不可能だと気づく。




―――あれは「自分」だから「消せない」じゃないか




「・・・あ?」


そしてぴたりと止まる。窓ガラスには、何もいなくなっていた。
此処が何処か思い出したように、数度瞬きを繰り返す。
視界の端に良将が見えて、ようやく自覚し、驚愕し、動揺した。
良将の方へ顔を向けるのを今だ拒絶して、窓ガラスを凝視したまま、ただ、口を固く結ぶ。
どくどくと動悸がして、目の前がぐらついた。

言ってどうする。言いたくなかった。
こんなこと、たいしたこと無いと言えばそれまでの。

ようやく増えた繋がりだから、嫌われないようにしようと必死に足掻いて、相手の深いところに踏み込むのも、自分の中に踏み込まれるのも躊躇していた。
はずだったのに、自ら虚勢を剥がして何を言い出すのか。

手にしていたスープは冷め切っていた。
スープを側に置いて、視線から逃げるように、ハクヤは左膝に頬を付けて横を向く。


「・・・だか、ら、いったんだよ。泊まらせなくて良いって」


動悸のせいか、声が震えた。


「いいと思うけどねェ、ゆっきーの髪。綿菓子みたいでさァ」

「別に無理してにそんなこと言わなくていいんじゃねーの」


自己嫌悪でグルグルしていたハクヤは反射的に噛みつく。
良将からなにも返ってこなくなり、そこで、失言に気づいて後悔した。
気を使われたのに、これはない。
罪悪感で顔を顰め、良将が溜息を漏らしたのに気づいて余計に、焦る。
何か言わなければと、考え、真っ白な頭からは何も浮かんでこない。
家に上がったときからずっと同じ体勢で身体を強張らせたまま、ただ焦りだけが積もっていく。


「・・・ったくしょうがねェなァ、うりゃ!」


じっと固まったまま神経を尖らせていたハクヤの耳が良将の声を拾ったかと思うと、くるりと視界が回りぼふっとした感触と共に視線が少し上向く。
自分の身体が倒れ、何かにもたれかかっていた。
それは分かるが、問題はもたれかかっているのは「何か」だ。
いや、何かは分かり切っているのだが思考が固まって状況を把握するのに時間がかかった。
背中から感じる感触は壁の割には不安定で暖かい。起きあがろうにも、両肩を相手の腕で押さえられて無駄に終わった。

怒る気力も、暴れる気力もなかったが、衝撃は受ける。


「・・・っ、何してんだよ」

「It's a greatly hug!」


やたら発音の良い声を間近に聞きながら、何とか聞き取れた部分を拾い、ハグとかなんとかいってるのはわかった。
いくら何でもハグの意味ぐらいは分かる。


「即答すんな。そこじゃねーよ。後ろからかよ」

「いやコレ効くんだ、マジで。大人相手でもさ、何気にこういうのが一番いいんだよねェ」

「いや、どういう絵面だよこれ。外国文化ワケわかんねー」


内心ほっとしたハクヤは、表情が抜け落ちた自分の顔が少し和らいだのに気づいていない。
世間話のようにつらつらと喋る江間に、もたれ掛かった体勢のまま、口だけを動かした。
文句を連ねてはいるが、ハクヤも無理に起きあがろうとはしなかった。
強張っていた身体の力を抜いて、後頭部をトスッと良将の肩に乗せ直す。
良将の黒髪が間近に見えたが、何故か先ほど気にならない。

ただ、意識が今だ幼少の扱いを思い出して、引きずられていて、無意識に言葉を零す。


「・・・振り払うとか、突き飛ばすとかしねーの」

「・・・それ、オレがお前をってこと? いやいやいや、ねーだろ!」

「・・・そーかよ」

「まったく、こんな構ってンのにまーだ信じてねェのかお前は!」

「・・・何がだよ」

「いろいろだよ!」


いろいろじゃわかんねーよ、と呟いて冷めたスープを片手で持ち上げて一気に飲む。
思ったよりも身体に染みて美味しかった。
スープを飲み終わってからしばらくの間、ハクヤはそのままじっとしていたが、次第に瞼が重くなってくる。
それは、不快な感じではなく、微睡みに近い感覚で。


「もー寝る? その足じゃまだロフト登れねェだろ、布団敷いてあげましょうねー?」


ウトウトしだしたハクヤの様子に気づいた良将にわざとらしくあやすように言い、それを聞いたハクヤは反射的に手の甲で後ろにいる良将の額を叩いた。
悲鳴が聞こえた気がしたが、気にしないでおく。

それでも、随分と気が楽になったのは紛れもない事実で。



「江間」

「ンー?」





「・・・―――」



ひかれた布団にくるまりながら、ロフトにいる良将へぽつりと一言つぶやいて、ハクヤは瞳を閉じた。
二度繰り返すには、意地が邪魔して無理だった言葉は、良将に聞こえたのかは分からないが。それならば調子が戻ったときに改めて言えばいいと思う。
布団はとても暖かく、久方ぶりのゆったりとした感覚の中、忍になんと言おうか、ちゃんと笑えるだろうか、と回らない頭で必死に考えて。
向けられる好意をようやく理解できるようになったのに気づかないまま、真っ暗な世界を緩やかにたゆたい、そして完全に意識を手放した。



















―――視界は少し開けたが、やはり所々何かが見えない。

―――それがなんなのか分からないまま、見えない何かにただ手を伸ばした。
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2008⁄03⁄27 23:38 カテゴリー:SS
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プロフィール

雪白ハクヤ

Author:雪白ハクヤ
性別:男
職業:クルースニク×魔剣士
誕生日:11月8日


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